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風呂の達人

20 年くらい前に「風呂」というゲームがあった。

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これは

  • 水を注ぐ
  • 水を止める
  • 沸かす
  • 止める

という 4 アクションを順に行うだけなのだが、水を入れるのにも湯を沸かすのにも実時間でそれぞれ 2-30 分くらいかかるという妙なバカバカしさがあって好きだった。画面に張り付いて操作するにはあまりに長く、かといって別の作業をしていると忘れてしまう。現実の風呂の概念がよく再現されている(今は自動給湯であることが多いが)。

蛇口から注がれる水はリニアな時間の経過とともに溜まってゆき、そしてそこに熱が加わってお湯になっていく。積み重ねた時間の分だけ、ただの水色の塗りがプレイヤーの眼前では生き生きとした湯となるのだ。

当時の 2000 年頃のゲームにおいてこうした実時間志向というのは、それまでのゲームらしいゲームの記号的概念を覆すメタ感が強かったように思う(大元は「たけしの挑戦状」からの着想らしい)。

その後ブラウザゲームやソシャゲなどが盛んになると、実際に 1 日 2 日と時間を費やす放置ゲーな要素もわりと当たり前になってくるのだが、なんといってもこれは風呂であり、特に達成したところでただの風呂でしか無い。

報酬として存在するのは右上の「風呂の達人」だ。勝手に達人を名乗るこの男性がプレイヤーの各工程について律儀にコメントし、最終的な風呂の仕上がりを採点してくれる。

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この達人の存在がとても好きで、最初は穏やかにアドバイスをくれるのだが、異常に風呂を熱しすぎると「熱すぎるぞバカ!!!止めろ!」みたいなことを言うのがなんとも良かった(セリフを確認しようと思ったが今の PC だと文字化けしてしまった)。

たとえば海原雄山を前にして、どれだけブチ切れさせることができるのか試してみたい欲望というのだろうか。怒られても別にこれはただの風呂だからプレイヤーのプライドが傷つくこともないし、そして現実の風呂ではないので被害が出ることもない。

ただただ実時間の経過とともに溢れゆく風呂や、熱くなりすぎて台無しになっていく風呂の姿を、達人は達人であるにも関わらず止めることができない。見守るだけで慌てふためくしかないという光景が繰り広げられる。これはもはや暴力のようなものだ。

風呂とは何か。これは風呂を介した、達人との対話だと思う。

令和の「風呂」

という古のゲームの思い出を書いたのは、なんとこの時代にあの風呂の達人が復活したからだ。

この動画では分かりやすく 100 倍速にして現代的なテンポのゲームになっているが、画面の中に存在する浴槽に水がたまり、それが加熱されていくというプリミティブな風呂のかがやきは失われていない。もちろん、それを評する風呂の達人も。

これまでは水を注ぐ/止めるの 2 値だったところが、蛇口型のデバイスによってアナログな水量の変化になったところも大きな見どころだろう。

作者の斎藤公輔さんは DPZ のライターをやっていて、後日記事にするとのことなので期待したい。

アプリ配布ページ

20 年も前のアプリだが、現在でも windows10 で動作することは確認できた。しかし達人のセリフは文字化けしてしまっていた。

インタビュー

「たけしの挑戦状」(宝の地図を読み解くために現実時間で 1 時間放置するギミック)をヒントにした話などをされている。